書店員のひとり向上委員会

本の感想やダイエットなど

悪い夏 染井為人

2017年 横溝正史ミステリ大賞 優秀賞

悪人に目をつけられ理不尽なまでに転落させられたケースワーカーを中心に様々な人間模様の小説。

 

ページをめくる手が止まりませんでした。

 

社会福祉事務所に勤める佐々木守

生活福祉課への移動が人生転落のきっかけに。同僚、担当する生活保護受給者、ここまで縁する人に恵まれないなんて気の毒すぎる。それとも守の人柄が悪い運気を呼び込んでしまうのか?

 

不正受給している人。そこから生活保護費をピンハネするヤクザ。

幸せになることを諦めてしまった人。まだ諦めてない人。登場人物がみんな癖ありです。

とはいえ、ラストに近づくとそれぞれ少しは人間らしいところが垣間見えます。

 

読み終わって思ったことは「誰でも生活保護受給者になる可能性がある」

印象に残ったシーン(ここからはネタバレ)

 

 

 

守は、同棲していた愛美に騙され薬物中毒にされた。

そんな中、生きるか死ぬかギリギリで生活保護の相談に来た人に言ったセリフ。

「ぼくだってほんとぎりぎりのところで生活しているんですよ。いっぱいいっぱいなんです。まっとうに生きているぼくがですよ。それなのにこういう理不尽な仕打ちを受けて、いったいぼくが何をしたのか、ぼくばかり損をしてつらい思いをしているのに誰も味方になってくれないし耳も傾けてくれない。誰もぼくを愛してくれないんですよ。もうなんでこんなことになっちゃったのか…」

 

 

 

吉男が金本にナイフで刺された時の回想

そんなに悪い人生じゃなかったかもしれない。最高の人生じゃなかったが、最低でもなかった。

誰もしてくれないのだから、自分が己の人生を肯定してやらなきゃかわいそうだ。